F先生じゃないドラえもんの歴史

●外伝前史
 70〜76年
 各学年誌の70年1月号から漫画連載が始まった『ドラえもん』。73年度からは当初掲載されていなかった「五年生」と「六年生」まで拡大し、同年放映されたテレビアニメ終了後も学年誌上では人気を博した。翌74年には初の単行本「てんとう虫コミックス」刊行。同年「小学館BOOK」にて『ドラ』の姉妹篇ともいうべき作品『ドラミちゃん』連載開始。更に、75年には「少年サンデー」で『ドラ』の読み切り作品が掲載、76年には「てれびくん」が創刊され『ドラ』も別冊付録で新作と再録を交えて掲載。また、この時期にグリコから発売された菓子のパッケージに『ドラ』が使用されたのもドラブーム世代にはお馴染みだろう。
 この70〜76年までの期間は、少しずつ『ドラ』が浸透してきた時期だと言えるだろう。そして、一つでも多くの新作『ドラ』が求められてきていた時期でもある。この頃は、同時に最大で8誌に新作を掲載している。勿論、『ドラ』以外の作品も各誌に発表しているのだから、その膨大な仕事量をこなしたF先生には恐れ入る。ここで注目すべきは、ごく一部の例外を除き企画ものを含めた殆どの『ドラ』をF先生自らが描いている点だ。例外に関してもほぼしのだひでお氏かヨシダ忠氏の筆と言っていいだろう。
 
●ドラブーム期
 77年〜
 それまでの様相が変化し始めるのは「コロコロコミック」が創刊した77年頃からだろう。前年の「てれびくん」別冊付録に於ける『ドラ』再録が好評だったと思われ、「コロコロ」は(発行時点での)『ドラ』単行本未収録エピソード満載の“疑似単行本”とでも言うべき雑誌になった。そして『ドラ』をより一層楽しめるよう企画ページも用意された。それが方倉陽二氏の『ドラえもん百科』であり、ヨシダ忠氏の『ハムサラダくん』だ。『みきおとミキオ』や『バケルくん』を初め幾多の藤子作品も順次再録され、藤子不二雄という作家に非常に重点が置かれていた。
 しかしこの辺りの時期から、F先生は児童向けよりも少し上の世代向けの少年漫画(『エスパー魔美』や『T・Pぼん』、SF短編等)を描き始めた。学年誌では『ドラえもん』だけになっていく。こういった背景の中、学年誌以外の『ドラえもん』に関しては、代筆作品が出てくるようになる。「てれびくん」別冊付録に方倉陽二氏筆の作品(藤子不二雄と連名)が掲載されたり、学習漫画をヨシダ忠氏が、グッズ系イラストをしのだひでお氏が描くようになってきた。「いつから」なのか明確な線引きは難しいが、大体この76〜77年頃からだとは言える。
 『ドラ』以外にも目を向ければ、この現象は今に始まったことではなく、例えば『オバQ』の頃の企画ものや『ウメ星デンカ』の代筆作品などがある。今回の特集ではフロシキを広げすぎると収拾がつかなくなるため、極力『ドラ』時期に絞って話を進めたい。
 「コロコロ」に話を戻そう。企画ものでは正式デビュー以前の田中道明氏が『いつも二人で…フジコフジオ日記』を連載したり、他にも藤子スタジオ(当時)のアシスタント諸氏が様々な形で紙面に参加していた。これは編集側の要望に対し、F先生が対処しきれなくてアシスタントに任せるという現実も有る一方で、F先生的には新人の実戦の場として考えていたようにも思える。勿論、編集側の意向として『ドラ』なり『藤子』を理解している藤子スタジオの人間に描いてほしい、というものも有っただろう。藤子不二雄だけを追っていると見えにくい部分だが、“プロダクション単位の仕事”と考えれば分り易いだろう。
 余談だが、藤子不二雄名義で発表された作品とはいっても、ネームと下書きと顔のペン入れはF先生でも、その他の作画面に於てはアシスタントの筆が入っている訳で、またA先生の作品も同じブランドで発表されていた事も含め、ならば作者表示は「藤子不二雄と藤子スタジオ」といった感じにするべきだったかもしれない。実際「スタジオ・ゼロ」の頃は表示していたし、こういった表示をする漫画家は何人もいるのだから。
 
●F先生ダウン 
 80年代中盤〜
 ここでちょっと『ドラ』から離れ、新作アニメに対する新原作について触れておきたい。79年の『ドラ』アニメ化以降、次々と藤子作品を原作とするアニメが制作、放映(あるいは公開)されてきた。『怪物くん』『21エモン』『忍者ハットリくん』『パーマン』『プロゴルファー猿』ぐらいまでは、アニメ放映に併せて新作漫画が原作者自身の手で描かれた(当時はFA区別ナシの藤子不二姓名義)。F先生は『21エモン』1本と、『パーマン』は各誌で連載された。
 しかし85年ぐらいから、F先生が自らの仕事のペースを調整される。それまでコンスタントに発表してきたSF短編やその他連載作品も執筆されなくなりつつあり、そしてほぼ『ドラ』の学年誌レギュラーと映画原作大長編が中心になってくる。この時期に始まった新たなキャラクター作品『チンプイ』は注目すべきだろう。
 そして大きな出来事としてF先生のご病気にも触れねばならない。86年に7月に手術し、学年誌での『ドラ』の連載は再録中心に、大長編『竜の騎士』は連載延期となり異例の11月スタート、翌年の『パラレル西遊記』に至っては原作連載自体が中止となった。
 そんな中、『キテレツ大百科』アニメ化の際も残念ながらF先生の新作は描かれず、田中道明氏によって『新キテレツ大百科』が描かれた。従来ならば慣例的に新原作が描かれていたことだろう。

●F先生じゃないドラ、続々登場 80年代末〜90年代
 88年1月に藤子不二雄コンビ解消、3月には原作が描かれず公開された映画『パラレル西遊記』など暗い出来事が多く、F先生の執筆活動にも限界が見えてきつつあったこの時期、市場的には『ドラ』の新作や新たな藤子アニメが求められる中、89年3月に、映画『ドラミちゃん ミニドラSOS!!!』が公開される。映画化10周年のお祭り企画であると共に、ドラミちゃんが作品・キャラクター共にピックアップされ、本作の好評を受けて後にシリーズ化された。しかし、これこそが後の“ドラだけブーム”の序章だったかもしれない……。この時期、少女漫画誌「ぴょんぴょん」にて、いそほゆうすけ氏の『ドラミちゃん』が掲載される。方倉氏の『ドラえもん百科』以来の『ドラ』作品世界の幅を広げる作品になった。
 こんな状況下、『チンプイ』に関しては85年スタート以来たびたび途絶えがちでは有れど、アニメ放映中にF先生自らが原作連載されていたのが心強かった。
 90年代初頭あたりから、『ドラえもん』は活躍のフィールドが広がってくる。学年誌でのF先生のレギュラー連載が再録ばかりになる中、少しでも多くの何等かの”新作”を発表するべく……。藤子スタジオ出身諸氏が、『ドラえもん』を使用した学習漫画やゲーム攻略本などで漫画を執筆、続々刊行された。これらはそれぞれの作風で描かれたパラレルワールドとでも言うべき物で、知られざる力作、秀作が少なくない。
 92年初頭、連載中だった大長編『雲の王国』のラスト2回が、F先生の体調不振により漫画は描かれず、代わりに藤子プロによる絵物語が掲載される非常事態が発生した。(後にラスト部分の漫画がF先生の手で描かれる。)
 同92年、『新キテレツ』を手掛けていた田中道明氏が映画『雲の王国』の併映『21エモン・宇宙いけ!裸足のプリンセス』のコミカライズを担当した。前述の状況下、旧映画化時のようにF先生の新作は望むべくもなかった。なお、田中版は、極めて映画の内容に忠実で好感の持てる作品に仕上がった。
 95年には、新たな潮流が生まれる。それは『ザ・ドラえもんズ』の登場だ。3DOというゲーム機用ソフトに登場するキャラクターで、当初は『ドラドラ7』とも呼ばれていた。キャラデザインは田中道明氏が担当。今までの他者による『ドラえもん』はあくまでF先生版に準じた世界観であったのに対し、『ザ・ドラえもんズ』はドラえもんのバリエーション的なキャラクターチームが、それぞれ今までとは違う独自設定と世界観を背負って現れた。F先生の原作版に著しく遠いイメージの『ザ・ドラえもんズ』は原作ファンには嫌悪感を抱かれてしまうが、そんな逆境はものともせず後に劇場アニメ版で大人気となり、学年誌ではF先生版『ドラ』の再録中断の後釜として田中氏と三谷氏の漫画連載も順次展開し、次第に定着していった。また映画シリーズ化前に『2112年ドラえもん誕生』にも顔見せ程度に出演する。この映画は混乱するドラえもん関連情報を整理し、この作品で描かれていることがF先生公認のオフィシャル設定とされているが、かつての『ドラえもん百科』等で描かれたものと大きく、かえって混乱させてしまったようだ。近年ではまたくつがえされた設定も有り、ドラえもん関連の設定はこれからも時代の流れと共に変わっていくだろう。

●F先生逝去後 
 96年〜現在
 そして96年9月、F先生が亡くなった。唯一「コロコロ」で展開した大長編シリーズ『のび太のねじ巻き都市冒険記』の途中で絶筆となり、続きは当時チーフアシスタントだった萩原伸一氏と藤子プロスタッフの手で描かれた。以後、大長編シリーズは藤子プロスタッフの手で書き続けられている。
 後に萩原氏は大長編とは別に、レギュラーシリーズの世界観に沿いつつミニドラを主役に据えた『ぼくミニドラえもん』を「コロコロ」に発表する。のび太とミニドラの間柄が調度ドラえもんとのび太の関係を逆転させたものにしており、わずか5回の掲載で終わったのは非常に残念な、意欲作であった。
 そして現在、「コロコロ」誌上では『ドラベース・ドラえもん超野球外伝』が連載中だ。秘密道具も使用するし、初回こそドラえもん本人が登場したが、基本的に独自の世界観を持つ燃える熱血野球漫画である。
 
 駆け足で綴ってみたが、いずれの作品もF先生の原作を理解する作者の手によるものであり、絵柄や世界観はそれぞれ違えど、原作なりキャラクターを尊重した作品群である。
 もしあなたが、「アニメの『ドラえもん』は愛好するが他者以外の漫画版は絵が違うから嫌いだ」というなら、それは「食わず嫌い」ならぬ「読まず嫌い」である。是非ともF先生の手を放れた『F先生じゃないドラえもん』作品群にも触れてみてほしい。そして再びF先生の『ドラえもん』に接したとき、きっと新たな『ドラえもん』像を発見するだろう。
 今回の特集を通じて、様々な”ドラえもんワールド”を堪能してほしい。

まあ、だまされたと
思って読んでみなよ!

(バロン亀山  協力・目黒広志)


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