原作はもとより、アニメのテレビシリーズが終了して久しい『パーマン』ですが、いまでも藤子・F・不二雄(藤本弘)の代表作の一つとして、広く知られています。その一方で、この作品はなんとも複雑な歴史をもっており、一口に“パーマン”といっても、その表情はその時々でずいぶんと違うものなのです。

『パーマン』のオリジン
 『パーマン』が初めて世に登場したのは1966年(昭和41年)12月のこと。すでに『オバケのQ太郎』が登場して1年といくばくかが経過したあたりです。といっても、実はこの頃(昭和30年代)までの藤子漫画というのは、勧善徴悪のスタイルの“ヒーロー戦記もの”とでも形容すべき作品が多く、世間一般の藤子不二雄イメージとはちょっと外れたところにありました。『オバQ』も『パーマン』も、いわゆる“日常”を舞台として少し不思議な世界を遊ぶ「藤子・F・不二雄らしい漫画」としては、その初期の作品だと言えるでしょう。
 ところで、『パーマン』を読むと、等身大のスーパーヒーローが活躍するアクション活劇に面白さを感じるし、またペブシマンのように、ヒーローのはずなんだけどずっこけてしまうギャグ漫画としても楽しい。こんな、一粒で二度おいしいような漫画は、なかなかないものです。『ドラえもん』ほどではないにしても、『パーマン』が根強い人気をもっているのには、そんなところがあるからかもしれません。けれども、これこそは原作者の悩みの跡でもあります。
 これは言いかえると、“子供のスーパーマン”として描きたい作品と、“かっこ悪くておかしなヒーロー”として描きたい作品とが混在していて、実はテーマが矛盾しているということなのです。しかし、藤本先生のすごいところは、まるで一本橋を渡るようなさじ加減で、このどちらも両立させてしまった(!)。後に「とても苦労して愛着のある作品」だと単行本のカバー折り返しで語っているのですが、たぶん苦労のポイントとはこういうところにあったのではないでしょうか。こんな話を知っちゃうと、読んでいるだけの側からしても、なんとなく愛着がわいてしまいますね。
 恐らくは『オバQ』の流れや、以降の作品などに続いていくところからして“面白ヒーロー”路線の方を指向していたと考えられるでしょう。『パーマン』はそんな過渡期にあった作品というわけです。
 それから、約10年後に描かれる『中年スーパーマン左江内氏』や『エスパー魔美』だとさすがに生硬さが抜けるばかりでなく、登場人物の“心の動き”をリアルに伝えるハートフルな逸品にまで昇華していますが、それもやはり『パーマン』あたりに源流があるようです。笑い、冒険、そして、パーマンをやめたくなったり、家出してみたり…。そんなキャラクターの表情を、藤子・F・不二雄が漫画に描きこみはじめたのも『パーマン』以降かもしれません。
 さて、ちょっと連載状況について触れてみましょう。『パーマン』の連載そのものは、「小学三年生」「小学四年生」昭和41年12月号からスタートしていますが、本流はやはり「週刊少年サンデー」(昭和42年第2号から第44号まで)での連載でしょう。しかし、学年誌や雑誌「小学館コミックス」に掲載された作品にも力作が揃っていますから、本流などというのは実質的には意味がないことでしょうね。ただ、スーパー星(後にいうバード星)に留学するという最終回が描かれるのはサンデー版のみであり、その後に一度だけ帰省してくる読切作品『帰ってきたパーマン』が掲載されるのもサンデー増刊となっています。学年誌での連載は小三・四の昭和43年8月号まで続きました。あとはリストのページをご覧下さい。なお、小三・四の連載初回時、パーマンデザインが全然違っていたというのは、藤子に詳しい方なら常識?かも。
 このほか「めばえ」「よいこ」「幼稚園」「小学一年生」にも連載されましたが、幼児向けとして絵本的にカラーで描かれ、わかりやすい物語はこびとなっています。「よいこ」「幼稚園」にはしのだひでお氏が描いた回もあります。

16年振りの復活?
 時はめぐりめぐって16年、1983年(昭和58年)から『パーマン』が再び描かれることになりました。背景には1979年(昭和54年)以降のいわゆる“ドラ・ブーム”があります。ここで復活した『パーマン』は、キャラクターは同じでも昭和41〜3年に描かれたものとは全く違う作品だといえます。例えば現在、唯一入手できる単行本である「コロコロ文庫」をたて続けに読んでみると気付くと思うのですが、途中でキャラクターや背景の絵が妙にかっちりしてしまうのはともかく、話のテンポがばったり変わってしまうのは、錯覚ではなくて実際に別モノだからです。
 F漫画の形成過渡期にあった頃とは違い、藤本漫画の骨格や設定設計の思想はある程度できあがっているため、『パーマン』がそっくりそのまま復活はしないわけです。藤本漫画史観から捉えてみても、旧と新とではポジションの重みは全然違います。
 新『パーマン』では、ぐっと身近に、キャラクターに重きを置いた作品に一変することになりました。もっとも、藤子・F漫画の発達の方向がキャラクターの心情描写の深化に進んだとはいえ、その程度は対象年齢によって厳然と分別されていますから、小三・四対象の新『パーマン』はシンプルです。
 単なる小学生としてのミツ夫、街の動物のためのスーパーマンであるブービー、ミツ夫に密かに恋心を抱くアイドルのパー子、商売第一のパーやん…といったキャラクターの個性そのものを、もうちょっと掘り下げてみたというのが新作の面白ポイントといえるでしょうか。ただ、乙女心に悶々とするパー子とかなんとかいっても、キャラをとことんまで追い込むことはないし、千面相や全悪連が絡む事件話は軽いジョーク感覚に徹しているので、なんだか食い足りない印象となってしまうのが新『パーマン』の辛いところ。けれど、こういうのは、オリジンでは楽しめないですから、原作者が自ら描いたファンサービス作品として受け止めるべきなんでしょうね。
 せめてこれらのキャラが大冒険する長編が一本でもあれば、世界の広がり方が一変しているはずですが、そういう作品が描かれる土壌も、もはや傍系の新作には最初からないわけで……。
 連載は、「小学三年生」と「小学四年生」で昭和58年4月号から。こちらでももっとも長い期間掲載していたのは小四でした。このほか、「月刊コロコロコミック」「てれびくん」でも掲載されました。